芥川賞受賞作を読む

 

きことわ

きことわ

 技術は高い。「意識の流れ」的な手法による時間処理の仕方も面白い。だが、決定的に物語内容が希薄。同じ書き手の別の作品を手に取ろうという気にはならない。
苦役列車

苦役列車

 こちらは掛け値なしに秀逸。文章も見事なのだが、何といっても物語内実が面白い。人間の醜悪さ――巨悪ではなく、惨めったらしい小人物の貧乏くさい悪――をここまで見事に描いた文学は近来稀有なものだ。今後の作品にも注目したい。