小林エリカ『光の子ども1』(2013)、『マダム・キュリーと朝食を』(2014)

 小林エリカ氏の作品を二作続けて読む。一つは漫画『光の子ども1』(リトルモア、2013年)。もう一つは小説『マダム・キュリーと朝食を』(集英社、2014年)。いずれも、科学と歴史と文芸とが、幸福な出会いをした稀有なる作品である。両作は登場するキャラクター(人物・動物)や物語世界をゆるやかに共有している姉妹のような二冊である。いずれの作品も〈放射線〉〈放射能〉が物語をささえる基本的テーマのひとつであるとみてよい。その関心は2011年3月に起こった原子力発電所の爆発事故のはるか以前から作者のなかで育まれていたものである。両作ともに、放射線放射能物質を単に忌避する心性とも、それを手放しに安全だと肯定する態度とも異なる、いわば恐怖と魅惑の相半ばする不思議なポエジーを湛えている。そう、ポエジーなのだ。いずれの作品も、科学や文化の歴史、具体的にはラジウムの発見、X線透視装置、映画の黎明期の技術、エジソンとテスラの対立した発電送電技術、シカゴやパリの万国博覧会、そして福島第一原発事故を強く想起させるカタストロフ後の世界、等々、丹念な歴史調査に裏付けられた、大変に博識な作品である。だが面白いのは、その博識を小林氏はみずからの創作の芸風とはしないことだ。ペダントリーというのは有意義な文芸手法のひとつで、無数の知識を縦横に散りばめた魅力的な作品は世に少なからずあるが、この両作は該博であるにもかかわらず、その知識を剥き出しに並べ立て読者を幻惑するのではなく、美しく、哀切で、ときにコミカルでもあり、エロスに満ちたテクスト、描画、コラージュとして結晶している。ペダントリーではなく、ポエジーの奇跡的な結晶。この結晶はわたしたちの前で、ラジウム塩の青い光とも微妙に異なる、冷たく、しかしどこか生気を感じさせる光を放っている。

*『光の子ども』はリトルモアのサイトで第1巻の冒頭部分が試読でき、さらに第2巻に収録されるであろう第7話以降と著者インタヴューが読める。必見である。