地学の文化史に関する、比較的最近出た本を読む。
著者は地質学者。地学的なイマージュ、大地の描写に富んだ文学テクストの書き手として、
ノヴァーリス、
ゲーテ、
宮沢賢治などは馴染み深いが、本書では、
大岡昇平の『俘虜記』や『武蔵野夫人』にみられるフィリピンや武蔵野の大地の細密な描写、
スタインベックの『
怒りの葡萄』に現れる
アメリカの大地の地質学的記述が指摘される。また、
魯迅が日本に留学して医学を修める以前には地質学徒であり『中国地質略論』という著作をものしていることなど、この本を読んで私は初めて知った。地学文化論というジャンルがあるとすれば(そこには
ロジェ・カイヨワの『斜線』や『石が書く』『石たち(
Pierres)』といった美しいエッセイ、またダゴニェの『具象空間の認識論』といった著作が列挙されなければならない)、その良質の成果のひとつであろう。写真もうつくしく、地学・地理学の専門出版社・
古今書院ならではの好著である。