地質学史懇話会、宮沢賢治と地質学

 午前中、お茶大の舞踊学会に出ようかと思ったが、そうすると一日に3件の学会ないし研究会をはしごすることになり疲れそうなのでやめて、午後から地質学史懇話会の例会に出席。出版社K社のIさんにもお越しいただいた。

2007年6月16日(土) 午後1時30分-5時00分
場所:北とぴあ7階701号室 JR京浜東北線王子駅下車3分
加藤碵一:宮澤賢治と地質学
大森昌衛:地質学史の年代学
http://www.geocities.com/jahigeo/jahigeo3.html

 別用があった関係で、加藤氏のご発表のみを聴かせていただく。発表内容はおおむね、出たばかりの御著作『宮澤賢治と地的世界』に基づいている。会場で割引販売していたので購入。

宮沢賢治の地的世界

宮沢賢治の地的世界

 地質学者である加藤氏のお話は、宮沢賢治がもっていたであろう地質学の知識を、当時の地質学史を調査することで推定し、それに照らして、賢治作品にあらわれる鉱物(学)的・地質(学)的なイマージュを分析するものであった。つまり、現代の知識からではなく、賢治の時代の鉱物学・地質学の知識から、賢治作品を分析するという手法。科学史と文学の幸福な出会いである。
 これまで国文学者が行ってきた賢治研究は、地学や外国語の基本的な知識がないままになされてきたので(ふつうの国文学者にそのような知識があることは稀だろうが、賢治を研究しようというのなら、地質学者に一応相手にされる程度の知識を独学で身につけるなり、プロの地質学者に教えてもらうなり、科学のドイツ語が読める人間に相談するなりすべきであろう)、数々の誤りがある。たとえば、賢治が作中にカタカナ書きしている鉱物が何であったか、正確に同定できていない。ドイツ語や当時の鉱物学の術語の知識がないためだ。それは学問的に間違っているという以前に、賢治の多用した地学的・物質的メタファーを十全に昧味する上でも障害になる。地質学の専門知識をもつ加藤氏の研究は、この障害をとりのぞくものである。
 賢治の地学的メタファーの正体が、科学者の側からの貢献をうけて、ようやく正確に同定された。あとはこれをもとに、文学研究者が賢治の想像的宇宙を解明しなければならない。加藤氏には文学研究者との共同研究を望みたい。
 加藤氏発表後の休憩時間に、Iさんとともに加藤氏にご挨拶し、会場を出る。