ポウプ『人間論』

人間論 (岩波文庫 赤 224-1)

人間論 (岩波文庫 赤 224-1)

 十八世紀英国の詩人ポウプ(Pope, 1688-1744)の『人間論』(An essay on man, 1733-34)を読む。邦訳は上田勤訳・岩波文庫(1950年初版、2001年復刊)。理神論的あるいは物活論的自然観をうたった哲学詩である。

見るがよい、この空、この海、この大地を埋めて、
あらゆるものが活々躍動し、誕生している。
上には生命がなんと高くまで進出し、
周囲はなんと広く、下はなんと深く延びていることか。
存在の巨大な鎖! それは神に始まり、
天のもの、地のもの、天使、人間、
けだもの、鳥、魚、虫、
眼に見えぬもの、望遠鏡のとどかぬもの、
無限から汝へ、汝から無へ――
上なる力に我らが続くとすれば、
下なる力は我らにつづいている。
(30-31頁。現代の漢字・仮名遣いに改めた)

 ここに「存在の巨大な鎖」と訳されているのは、アーサー・ラヴジョイがあの大著で述べた「存在の大いなる連鎖(Great Chain of Being)」、神(イデア)からの距離におうじて万物は秩序付けられ、ひとつながりの鎖によって結合されているという、プラトン以来の西洋思想を貫く観念である。

存在の大いなる連鎖 (晶文全書)

存在の大いなる連鎖 (晶文全書)