鈴木邦男『公安警察の手口』

公安警察の手口 (ちくま新書)

公安警察の手口 (ちくま新書)

 公安といっても、警察庁公安部・警視庁公安部・公安調査庁などいくつかの組織があり、警察組織のなかでは、公安警察と刑事警察が対立していたり、右翼と公安が共に相手を利用する共犯関係を築いていたり(そうみえて、実際のところは、右翼は公安の手の上で踊っている面が強い)、なかなかに複雑である。本書はその組織構造を(むろん完全なものとはいえないだろうが)かなりの程度明解に解説する。また、いくら警察の不祥事や腐敗を眼にしてきてもいまだわれわれがかすかに抱いている警察への信頼感をこなごなにするような、ほとんど信じ難い公安警察の捜査手法の実体(たとえば、右翼や左翼や信仰宗教団体の構成員の近くで、公安の捜査員が勝手に転んでおいて、その構成員を公務執行妨害で逮捕する、といった程度は序の口だ)が、著者の体験を交えて明らかにされる。鈴木氏は右翼団体一水会の創設者だが、思想的には非常にバランスのとれた立ち位置から正論を静かに主張する、そして人柄も、私は何度かお目にかかっていて(4月14日参照)存じ上げているが、大変穏やかで知的な人だ。そんな鈴木氏でも危険分子とみなされ、非合法といってよいような公安の捜査を経験していることに驚かされる。