アルフォンソ・キュアロン『トゥモロー・ワールド』(2006年)@DVD

 西暦2027年。ロンドンには移民が溢れ、当局は移民たちを厳しく取り締まっていた。街にはテロが横行し、全てが殺伐としていた。18年間、人類には子どもが誕生しておらず、人々は未来のない世界を生きていた。ある日、エネルギー省官僚のセオは、元妻・ジュリアンが率いる地下組織FISHに拉致される。彼らはセオを利用し、人類救済組織“ヒューマン・プロジェクト”に、人類の未来を担う一人の少女を届けようとしていたのだ……。
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD9720/index.html

 全人類が生殖能力を失った未来世界は、人口爆発の世界を生きる我々からみれば一種の理想世界の極端な形か。あるいは、少子化の時代を生きる先進国に限ってみれば、現実世界の直線上にあるリアルな未来社会か。人口が減少する一方の世界であるにもかかわらず、人々はその減少を加速するかのように殺戮を繰り返す。この生殖不能の世界で、ひとりの少女の妊娠が明らかになる。彼女は、自分は処女であると語るが、実際には父親が誰か分からないということらしい。彼女は出産する場所は馬小屋である。そして原題は人の子 Son of Man (聖書でキリストをあらわす言葉)を明らかに意識した「人々の子供たち Children of Men」。つまり神聖受胎、イエス降誕のパロディなのだ。スラムが全面化した都市、暗躍する秘密結社の対立(神は偉大なり!Allah akbar と叫ぶイスラム教徒も現れる)、爆破テロのながまわしショット。全てが奇跡的な迫力である。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の監督の手になる映画であることなどこの際きっぱりと忘れ、この衝撃を誰も体験しなければならない。必見である。