フィギュアのアクロバッティズム批判

clair-de-lune2007-03-25

 世界フィギュア安藤美姫が金、浅田真央が銀受賞。喜ばしい。評価にたがわない立派な演技だった。
 彼女たちの活躍は大いに喜ばしいのだが、例えば次のような記事を読むと、暗澹たる思いがする。

ジュニアからシニアへと追う立場だった浅田も、もはや追われる立場にいることは認識している。さまざまなプレッシャーに打ち勝たなければ、女王の座は手に入れられない。すでに、女子では数人しか成功させることができないトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)という武器を持つが、来季はさらなる大技に挑戦するつもりだ。「みんな同じジャンプを跳ぶようになってくると思うので、もっとレベルの高いジャンプを跳びたい。まだ来季のプログラムに入れるかどうかは分からないけど、練習しているのは、トリプルアクセルからのトリプルトゥループ。まだ回転不足だけれど、アクセルの調子が良い時には練習している」と、男子でも大技の部類に入る3回転半−3回転の連続ジャンプへ挑む意欲を見せた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070325-00000019-spnavi-spo
(3月25日19時6分配信 スポーツナビ

女子銀メダルの浅田真央(愛知・中京大中京高)はビールマンスピンなどでアピール。「(5位の)ショートプログラムは悔いが残るが、フリーは今季一番よかった。ばん回できてよかった」と満足感を漂わせ、来季に向けてトリプルアクセル(3回転半)―3回転トーループの連続ジャンプをすでに練習中という。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070325-00000061-mai-spo
(3月25日20時6分配信 毎日新聞

 フィギュアはアクロバットを競うスポーツなのか? なぜジャンプばかりが注目されるのだろう。安藤も浅田もたしかにすばらしい。だが、それはジャンプの技巧のためではない。彼女たちの身体が氷上に美をもたらすがゆえにすばらしいのである。技巧点偏重の採点、ジャンプのみを評価するメディアや観客の愚かさ。そんな期待に応えざるをえない選手たちも不憫だ(今回は出場していないが、アクロバッティズムへの加担を一貫して拒否しつづけている村主章枝を私は強く支持したい。この点ではキム・ヨナもすばらしい)。
 ちなみにフィギュアのファンとバレエのファンはかなりの程度重なっているようだが、バレエでもアクロバティックなパがことさら評価される傾向がみられる。たとえば「白鳥の湖」でも32回のフウエッテ・アン・トゥルナン(fouetté en tournant;片足で直立し、いま一方の足で空を蹴りながら回転する)をいかにはやくまわるかといったことがことさら注目されるが、そんなことはバレエの優美さとは何の関係もない。こういうアクロバッティズムにとらわれているような観客ばかりでは、よいバレエは生まれない。

 ※画像は「まお」の「フィギュア」。Jung Chang et Jon Hallyday, Mao, Paris, Gallimard, 2006.