融07

 新国立劇場コンテンポラリーダンス公演「融07」を観る。

第一部
■DIVA
マリ=アニエス・ジロー
振付: カロリン・カールソン
映像: 端 聡

マリ=アニエス・ジロー(パリオペラ座エトワール)ソロ。
マリア・カラスがこよなく愛したオペラ「アンドレア・シェニエ」第3幕を優雅に、そして大胆に踊ります。
カロリン・カールソンの振付、マリの最も愛する代表的な
ソロのひとつです。
現代美術家の端 聡が映像でコラボレーション。

■In the middle, somewhat elevated
ダンス界の奇才 ウィリアム・フォーサイス作品

竹島由美子
ランディ・カスティー
振付: ウィリアム・フォーサイス

ダンス界の奇才ウィリアム・フォーサイス作の短編。
パフォーマーを動くオブジ ェとして捉え、舞台と云う枠を越え空間芸術と呼ぶにふさわしいミニマムな構成を、
竹島由美子とRandy Castilloが演じる。音楽はThom Willems。



■premiere ddv (東京公演では2日目のみ)
2007年度最新作 日本未公開作品


ブリユ・カルパンティエ
マルジョリ・アノト
マーク・マンドラバヘノカ
振付: マリ=アニエス・ジロー

パリ・オペラ座エトワール マリ=アニエス・ジロー振付 
2007年度最新作、日本未公開作品。
優雅さと神秘性を持ち合わせた全編約30分の大作です。
複雑 に絡み合う男女の関係をテーマとし、時には激しさを、時には静けさを美しい身体パフォーマンスで表現。
マリ=アニエス・ジローのもつ繊細な感性を垣間見ることができます。



第二部
■「融07」完結編〜愛の彷徨〜
来日ダンサー全員出演のオリジナル創作バレエ

振付: イリ・ブベニチェク
映像・オブジェ: 端 聡

ダンサー全員が出演するイリ・ブベニチェクのオリジナル振付作品。
2004年から上演されている「融」シリーズ完結編。
シリーズ共通のテーマ、揺れる男女の愛、葛藤を象徴としながらも、この07舞台はより幅広い人類愛をテーマに躍動感あふれる作品に仕立てられています。シリーズ共通のモーツアルト、レクイエムを冒頭と最後に挿入し最新のコンピューター音楽を構成します。ハンブルクバレエ団プリンシパルで最近は作曲家としても活躍するオットー・ブベニチェクが5曲の新曲を挿入。巨大3面スクリーンに映し出される映像、ノイズ音、さらにイリ・ブベニチェクの振付が観る者を魅了します。
聖母をモチーフとした端の平面作品とコラボレーションするパート、アフリカン民族太鼓のライブ演奏に合わせ、ダンサーのインプロビゼーション(即興)も飛び出すなど、新たな演出もみどころです。
ヨーロッパと日本の感性との融合から創作された「融07」完結編をお楽しみください。
(公式サイトhttp://www.cai-net.jp/YUH07/YUH07.htmlより)

 イリ・ブベニチェクは怪我で降板だった。まことに残念。今後についても心配。順調な回復を祈るばかり。イリの出演はなかったものの、なかなかよい舞台で、男性舞踊手たちは総じて立派なものだった。
 第一部では竹島由美子とランディ・カスティーヨが踊ったフォーサイスの「In the middle, somewhat elevated」がよかった。前後・左右・上下の三軸に拡がる空間を充実させ、二人が通り去ったあとにもアウラが残る。
 第二部はすばらしい。《レクイエム》の「怒りの日」とパッヘルベルのカノンに共通の振り付けを使っている部分があり、それぞれ違和感がないのだから面白い。アフリカン・ドラムのパフォーマンスもあって、舞踊の原点という感じで、なかなか楽しい。最初はドラムのソロだが、最後にはドラムに合わせてダンスが行われる。あのパフォーマンスがどの程度即興的だったのか、興味があるところ。
 マリー=アニェス・ジローの身体は筋肉がつきすぎで美しくない。あのような身体の作り方は machisme といわれても仕方がない。コンテンポラリーはいろいろな実験があってよいので、あのような macho な身体の女性が踊ることも否定はしないが、彼女はもともとオペラ座のエトワールだ。やはりオペラ座の女性舞踊手には、古典(主義)的な女性の優美さの価値を求めたいという気がする。彼女に比べて、竹島由美子の小柄で力強い身体にはるかに魅力を感じる。
 もうひとつ、舞台そのものとは関係ないが、プログラム冊子の編集があまりに雑なのが気になる。内容的にも分量的にも薄ぺらい。誤植も多く、正誤表も意味不明。スペイン語のカナ表記や仏語の原語表記にも基本的な間違いが目立つ。ダンサーの名前のような基本事項はしっかりしてほしいところだ。
 そういうわけで、いろいろ註文はあるが、全体としては充分に楽しめる舞台であった。イリの回復をまって、次回の来日公演に期待したい。

 会場では舞踊史を研究しているKさんに会った(というか、この舞台を勧めてくださったのは彼女である)。また舞踊学研究者のM先生にも数年ぶりで再会。