邦訳フロイト全集刊行中

 岩波書店からフロイト全集が刊行されている。いままで教文館のフロイド選集、人文書院フロイト著作集があったが、いずれも全集ではなかった。翻訳にも問題があったようだ。この岩波版は編年体の構成で、第1回配本は第17巻。後期の主著『快楽原則の彼岸』『無気味なもの』のほか、E.T.A.ホフマン論、テレパシー論など、後期の怪しげな論文満載で必読である。親密だったものが忘却を経て回帰してくると「無気味なもの」として現れるという『無気味なもの』はきわめて重要な著作だが、種村季弘訳・河出文庫は長らく品切。新刊で入手できるようになって嬉しい。この論文も含めて、全編をざっと読んだ限りでは、訳文も校訂も信頼できそうだ。2007年3月31日まで予約を受け付けているようだから、この方面に関心がある人は申し込んでおいたほうがいい。1巻あたり4000円前後で全22冊だから、さほど高価ではない。

 紀伊國屋書店bookwebより内容を紹介する。

フロイト全集〈17〉1919‐1922―不気味なもの、快原理の彼岸、集団心理学

429p 21cm(A5)
岩波書店 (2006-11-08出版)

・須藤 訓任・藤野 寛【訳】
[A5 判] NDC分類:146.1 販売価:\4,620(税込) (本体価:\4,400)

世界大戦という未曾有の「悪夢」は、リビード理論の体系を構築しつつあったフロイトをして「死の欲動」の概念を導入せしめ、思想の飛躍的発展を迫る。
虚無が混沌を生み落としてゆくヨーロッパの中心で、生と死が闘争する戦場としての心が描かれ始める―。

不気味なもの
快原理の彼岸
集団心理学と自我分析
論稿(一九一九‐二二年)(意識の機能に関するE.T.A.ホフマンの見解;戦争神経症者の電気治療についての所見;夢学説への補遺;女性同性愛の一事例の心的成因について;分析技法の前史にむけて;アントン・フォン・フロイント博士追悼;ある四歳児の連想;J.J.パットナム著『精神分析論集』への序言;クラパレード宛書簡抜粋;精神分析とテレパシー ほか)
死の欲動」の概念を導入した『快原理の彼岸』ほか、第一次大戦直後の考えを反映し、後期思想への画期となる二十二篇を収録。