アラン・コルバン集中講義

 フランスの歴史家アラン・コルバン氏が来日し集中講義を行う。1月22日から26日まで立命館大学。詳細は以下のふたつのURLを参照:
Alain Corbin Invitation Project(立命館大学大学院先端総合学術科)
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/w/acip/
立命館大学 2006年度 オンラインシラバス
http://online-kaikou.ritsumei.ac.jp/2006/syp/show?course_code=31613

立命館大学 2006年度 オンラインシラバス
特殊講義II C
Special Studies on Global CooperationI RB 後期 後期 2 CORBIN ALAIN

授業の概要 / Course Description
テーマ : 感性の歴史
講義名 : 感覚的なメッセージの受け容れととらえ方 appr残iationの歴史
講義サマリー
 30年前からずっと私の好奇心の対象のひとつであり続けてきたものを強調することからはじめたい。すなわち、感覚的なメッセージを受け入れる様式の歴史である。この歴史が含んでいるのは、今も続いている諸感覚のあいだにうちたてられた階層構造の歴史や、諸感覚のあいだに確立している照応 correspondanceの歴史、諸感覚からのメッセージの本性や強度の許容 tolerance される限界についての歴史、諸感覚のとらえ方の歴史、諸感覚の使用 l’usageを秩序づける規範や規律訓練の歴史である。この歴史が関わりうるものとしては、視覚―見ることの様式の歴史や、まなざしの規律訓練の歴史などを参照―、聴覚―音の風景の歴史に関するものを参照―、嗅覚―消臭化の歴史を参照―、あるいは触覚―愛撫の歴史を参照―…といったものがあるが、これらは例としてあげているだけである。それは、第6感または内的感覚という、18世紀末以降《体感 c始esth市ie》と呼ばれるものへと至るような感覚の役割を言及することも含んでいる。
 15年ほど前から、人類学者と歴史学者の一団が、 1) 歴史学ディシプリンのなかで増大する主知主義と《言語論的転回 linguistic turn》を告発し、 2) 《感覚論的転回 sensual turn》または《感覚論的革命 r思olution sensuelle》を賞賛してきた。それは―フランスにおいてはすでにリュシアン・フェーブルLucien Febvreが、また最近ではミシェル・セール Michel Serresが賞賛していたように―、感覚器の領域、そして時には、情動や欲望の領域、悦楽または嫌悪の領域に属するもの、そして身体の歴史に属するものすべてを考慮に入れるためだったのである。
 ディヴィッド・ハウズ(文献表を参照)が、この潮流の中心人物である。
 今回の集中講義において、この重要な問題が導きの糸となることを私は願っている。実際この問題は、雑誌『アナール』の歴史…都市の感覚的なとらえ方、風景の中への身体の登録 l’engagementに直接関わっており、《感覚論的転回 sensual turn》とされるものを、よりよく理解するのに適したテーマをなしているからである。
 これまで言及された《感受性の歴史》の主要な源泉が文学作品であり、とらえ方の体系がおそらくフランスと日本の間で深く異なっているであろうということからも、西川教授との対談が、こうした考察を締めくくるのにふさわしいものとなることができるだろうと示唆しておきたい。
 結論として、こうした歴史がいかに難しいものであるかを評定するのが適切であろう。だが同様に、こうした歴史の、近年の数多くの貢献を示すべきだろう。たとえば政治史の領域で情動の歴史が最も革新的な手がかりとして現われている。


到達目標 / Focus and Goal
焦点と目標 : この感性の歴史の、歴史書における定着とその総合的な評価。空間の表現ととらえ方の歴史に関する2つの例の提示。
※原則として、変更されることはありません。


授業スケジュール / Schedule
※履修している学生に対して事前に説明があった上で、変更される場合があります。

1日目
この集中講義の整合性を確保するために、1日目のうちに、先導するものとして、雑誌『アナール』の歴史の推移を、それに当てられる回とともに展開させておきたい。
感性の歴史、感覚器の歴史、《感覚論的転回》、これらの概念の系譜学。
2日目
雑誌『アナール』の歴史についての考察…心性の歴史からの《転換期 tournant》を再び問題にする。
アナール学派の遺産についての考察が含んでいるのは、第一に、史料編纂運動の根に帰ることである。その根とは、すなわち、経済学者フランソワ・シミアン Fran腔is Simiand や他の経済学者の間から生まれた、20世紀初頭以降存在している歴史心理学の潮流のことである。続いて言及したいのは、リュシアン・フェーブルやマルク・ブロック Marc Bloch の影響と、定量歴史学 historique quantitativeや系列的な歴史学 historique s屍ielleにいたる潮流とのあいだにある区切りのことである。その意味するものは、たとえば、少しばかり方向を異にする道をたどることであり、その一方はロベール・マンドルー Robert Mandrouや、ジョルジュ・デュビイ Gorges Dubyや、アルフォンヌ・デュプロン Alphone Duprontらがたどる道であり、もう一方はフェルナン・ブローデル Fernand Brodelがたどる道である。ピエール・ショニュ Pierre Chaunuやエマニュエル・ル・ロワ・ラデュリー Emmanuel Le Roy Ladurieといった人物が、この2つの流れの総合 synth市e をわかりやすく説明している。この考察は、《アナール学派の転換期》に関する問いかけによって締めくくる必要があるだろう。また、たとえ身体文化の領域にかぎるとしても、現在の研究の盛り上がりやきわめて豊かな状況を提示することによって、《歴史の危機》というもてはやされてきた観念に、わたしなりのし方で異議を唱える必要があるだろう。
3日目
風景の歴史と身体文化
風景の歴史家たちは、視覚がもたらすもののみを考察する傾向にあった。視覚が本質的なものであることは言うまでもない。だが、空間のとらえ方は、実際には多感覚的 polysensorielleなのである。それは、音の風景の存在そのものを問題にすると同時に、においの風景、そして多様な空間的実践(散歩、遠足、登山、孤独な航海……)に関わる問題を提起するのである。
4日目
大都市における感覚のとらえ方の歴史
感覚全体を通じた都市のとらえ方にも歴史がある。そこで、18世紀の終わりから20世紀初頭にかけて、ヨーロッパの大都市、とりわけパリの感覚的なとらえ方の進化をたどることができる。同時に、こうしたことを通じて、都市的な風景の歴史を描きなおすことができるだろう。それは都市空間を、さまざまな部分から、あるいは季節に応じて、あるいは夜の都市または昼の都市としてとらえるとらえ方の歴史として構想される。こうした歴史は、感覚的な地理学が、個人ごとに、またそれぞれの空間的実践ごとに違ったかたちで洗練されることを明らかにする。
5日目
提案(上記参照) : 西川教授との対談


受講生および研究に関するアドバイス / Advice regarding students and/or research
受講生に要求されるもの :
 この講義では、空間への注意の向け方、表象のし方、とらえ方の歴史に、学生が一定の知見をもっていることを前提とする。学生は、後に挙げている著作の1、2冊をそれなりに読むことで、空間に対する感受性をもつことができるだろう。



参考文献
 担当者の著作は、導入または事例のために役立つだろう(一冊を読むだけで十分である)。――すべての邦訳は、藤原書店から出ている。

1日目と2日目に関するもの
  ・アラン・コルバン、『においの歴史 :嗅覚と社会的想像力』、山田登世子鹿島茂訳、新評論、1988年。
  ・アラン・コルバン、『時間・欲望・恐怖 :歴史学と感覚の人類学』、小倉孝誠・野村正人・小倉和子訳、藤原書店、1993年。
  ・Alain Corbin, ヌ Senses ネ, in Peter N. Steans (dir.), Encyclopedia of social History, New York/ London, Garland Publishing, 1994, p666-668.

3日目に関するもの
  ・アラン・コルバン、『浜辺の誕生 :海と人間の系譜学』、福井和美訳、藤原書店、1992年。
  ・アラン・コルバン、『風景と人間』、小倉孝誠訳、藤原書店、2002年。

参考となる文献表。ディヴィッド・ハウズによって監修された、この2つの著作をよく参照することになるだろう。
  ・David Howes, Sensual Relations. Engaging the senses in culture and social theory, University of Michigan Press, 2003.
  ・David Howes, The empire of the senses. The sensual culture reader, Oxford/ New York, Berg, 2005.


・情報として、単に情報として、フランス語と英語における専門家の著作をいくつか挙げておく。
  ・Howes D., Sensual Relations. Engaging the Senses in Culture and Social Theory, Ann Arbor, University of Michigan Press, 2003.
  ・Howes D. (ed), Empire of the Senses. The sensual culture reader, Oxford/ New York, Berg, 2005.
  ・Howes D., ヌ Les cinq sens ネ, no sp残ial d’anthropologie et soci師市, Vol.14, no.2, 1990.
  ・ミシェル・セール、『五感:混合体の哲学』、米山親能訳、法政大学出版局、1991年。
・リュシアン・フェーブル、『ラブレーの宗教 :16世紀における不信仰の問題』高橋薫訳、法政大学出版会、2003年。
・Febvre L., ヌ Comment reconstituer la vie affective d’autrefois? La sensibilit et l’histoire ネ, Annales d’histoire sociale, 3, 1941.
・リュシアン・フェーブル、『歴史のための闘い』、長谷川輝夫訳、創文社、1977年。
・Mandrou R., Introduction la france moderne (1500-1640). Essai de psychologie historique, Paris, Albin Michel, 1961.
ノルベルト・エリアス、『社会の変遷 : 文明化の理論のための見取図』、羽田節夫ほか訳、法政大学出版局、1978年。
・LEVAN-LEMESLE L., in Carbonell C. O. et Livet G. (dir.), "AU BERCEAU DES ANNALES", Le milieu strasbourgeois, l’histoire en France au d暫ut du XXe si縦le, Actes du Colloque de Strasbourg, 11-13 octobre 1979, Toulouse, Presses de l’institut d’師udes politiques de Toulouse, ヌ Recherches et documents, 31 ネ, [1983]
・DIAS N., La mesure des sens. Les anthropologues et le corps humains au XIXe si縦le, Paris, Aubier, 2004.
・HAVELANGE C., De l’oeil et du Monde. Une histoire du regard au seuil de la modernit, Paris, Fayard, 1998.
  ・ジョナサン・クレーリー、『観察者の系譜 : 視覚空間の変容とモダニティ』、遠藤知己訳、十月社、1997年。
・パストゥローPASTOUREAU M.,にはこの分野について多くの業績があるがとりわけ ヌ Voir les couleurs du Moyen 虍e. Une histoire des couleurs est-elle possible? ネ, in Une Histoire symbolique du Moyen 虍e occidental, Paris, Le Seuil, 2004, p. 113sq.
・VINCENT C., Fiat Lux: Lumi俊e et luminaires dans la vie religieuse du XIIIe si縦le au XVIe si縦le, Paris, Le Cerf, 2004.
ジャック・アタリ、『ノイズ : 音楽/貨幣/雑音』、金塚貞文訳、みすず書房、1995年。
・GUTTON J.-P., Bruits et sons dans notre Histoire. Essai sur la reconstitution du paysage sonore, Paris, P.U.F., 2000.
・THUILLER G., Pour une histoire du quotidien au XIXe si縦le en Nivernais, Paris-La haye, Mouton, 1977.
アラン・コルバン、『音の風景』、小倉孝誠、藤原書店、1997年。
アラン・コルバン、『においの歴史 :嗅覚と社会的想像力』、山田登世子鹿島茂訳、新評論、1988年。
・LE GUERER A., Le Parfum des origines nos jours, Paris, Odilwe Jacob, 2005.
・ARON J.-P., Essai sur la sensibilit alimentaire Paris au XIXe si縦le, Paris, Armand Colin ヌ Cahiers des Annales, 25 ネ, 1967.
・ジャン=ポール・アロン、『食べるフランス史 : 19世紀の貴族の庶民の食卓』、佐藤悦子訳、人文書院、1985年。
・LOWE D., M., History of Bourgeois Perception, Chicago, Chicago University Press, 1982.
・PETER J.- P., De la douleur. Observations sur les attitudes de la m仕ecine pr士oderne envers la douleur, Paris, Quai Voltaire / Edima ヌ Quai Voltaire histoire ネ, 1993.
・スポーツの感覚についてヴィガレロGeorges Vigarelloの論文も参照, dans : CORBIN A., COURTINE J. ミJ. & VIGARELLO G., Histoire du corps, t. III, Paris, Le Seuil, 2006.



参考になる WWW ページ / Internet Websites related to the Course
ledantec@univ-paris1.fr


教員との連絡方法 / Contact
http://webct.ritsumei.ac.jp/webct/entryPageIns.dowebct


その他 / Others
この講義はフランス語でおこなわれ、逐次通訳がつく。
また、この講義は、先端総合学術研究科のコルバンの業績に関心を寄せる院生の要望を出発点として企画された。これらの院生が企画し、コルバンの業績に詳しい研究者を招いた事前の自主研究会を3回ほど開催する予定である。受講登録した方々はできるかぎりこの研究会に参加することが望ましい。
コルバン教授による連続講義の一部の時間を、参加院生のうちの有志による報告とコメント(ワークショップ)に充てることも予定している。受講者の確定後に、ワークショップにおける報告希望者の募集をおこない、ワークショップの構成をコーディネーターの責任でおこなう。ワークショップの報告希望者は上記の自主的研究会に参加することが求められる。
また、受講登録者はできるかぎり上記の研究会に参加することが望ましい。