北岡伸一『後藤新平』中公新書

 必要あって日本の治安行政史、内務省の歴史について少し調べている。今日読んだのは、北岡伸一後藤新平――外交とヴィジョン』(中公新書、1988年)。後藤新平(1857-1929)は、ご存知の方も多いだろうが、医師として出発し、のち官吏となり、内務省衛星局長、台湾総督府民政局長、満洲鉄道総裁、内相、外相、東京市長などを歴任した壮大な政治家である。「大風呂敷」と称された、この巨人の評伝として新書というサイズはいかにも不足だが、にもかかわらず本書は、外交家としての後藤という面に力点を置きつつ、後藤の生涯や業績を目配りよくまとめた名著であり、著者の筆力は賞賛に値する。文章も読みやすい。後藤について、もし一冊だけ読むなら、本書が最適であろう。

後藤新平―外交とヴィジョン (中公新書)

後藤新平―外交とヴィジョン (中公新書)

 なお、後藤についての決定版の評伝は鶴見祐輔後藤新平』(1937-1938年、全4巻。リプリント版は藤原書店から5巻本として入手できる)である。質・量とも、これを凌駕するものは書かれておらず、今後もしばらく書かれることはないだろう。4000頁を超える浩瀚な本で、一応、藤原書店版を購入してあるが、容易には通読できそうにない。しかし、いずれは目を通さねばなるまい。