バルタサール・グラシアンの邦訳

 昨日の日記で言及したバルタサール・グラシアンというのはショウペンハウエルやニーチェが賛美した思想家だが、彼に言及した研究書としてはポール・アザール『ヨーロッパ精神の危機』(法政大学出版局)やエウヘニオ・ドールス『バロック論』(筑摩叢書)などがわずかに見出せるのみである*1。グラシアン自身の著作は日本語で読めるものはないと思っていて、スペイン語原書を英訳と対照しつつ拾い読みしていたのだが、さきほど調べてみたら、少なくとも4冊邦訳が出ていた。

バルタザールの悪の自分学―何のための人生か、誰のための人生か

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賢者の教え―せち辛い人生をいかに生きぬくか (リュウブックス)

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バルタサル・グラシアンの成功の哲学―人生を磨く永遠の知恵

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バルタザール・グラシアンの 賢人の知恵

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 ただ、いずれも邦題をみてわかるように、たんなる人生論、自己啓発書のような位置づけで邦訳・編集されているらしいのが大変残念。グラシアンは非常に毒のある権謀術数の思想で、政治家が読むべき本だ。会社勤めをしているような人が読んでいいのか(笑)。また、『賢人の知恵』にかんしては英語からの重訳(他は未確認)なのも残念。ゴンゴラの訳者・吉田彩子さんのような方がきちんとスペイン語から訳し、思想書の古典として編集・刊行されることを願う。

*1:日本語によるすぐれた論考として、金森修「カメレオンの情操」(『比較文学研究』第53号、1988年4月、pp.91-106)がある。金森修自然主義の臨界』(勁草書房、2004年)に収録。