澁谷知美さんの講演「日本の童貞」

 22日の日記で予告した澁谷知美さんの講演を聴きに行く。会場は田町駅近くの港区立男女平等参画センター「リーブラ」にて18時半から。
 テーマは「日本の童貞」。基本的には自著(『日本の童貞』、文春新書、2003年)の自解である。
 童貞とは生理的には性交が可能な男性が、性行為を経験せずにいる状態。このレクチュアは、およそ明治から現代にいたる「童貞」をめぐる言説の変遷史である。おおまかに言えば、「童貞」を近代以前にはそもそも存在しなかった様態としてとらえ(生理的に性交可能になるとすぐに「筆おろし」をうけるため)、近代初頭(戦前)には貞操観念と結びついた賛美の対象としての童貞、近代後期(戦後)には女とろくに付き合えない男という軽蔑の対象としての童貞、そして1990年代以降のポスト近代にはふたたびカギカッコつきの「美徳」としての童貞(童貞は「カッコイイ」)という整理。ポスト近代においては、童貞と非童貞という差別的な二項対立が、ネット上の童貞である自分を臆せずカミングアウトする言説、みうらじゅんらが提唱した「D.T.」(体はすでに童貞ではないが心は童貞という在り方)概念によって崩される、つまり脱構築されるという。澁谷さんはポスト近代とか脱構築という言葉遣いはしていないが、基本的にはモダナイゼーション論の枠組み、すなわち、前近代(童貞の非在)→近代(童貞と非童貞という二項対立、賛美と軽蔑の二項対立)→ポスト近代(童貞が「ネタ」化し、童貞/非童貞という対立の解体により童貞概念の非在、つまり前近代への回帰)という枠組みによる文化研究である。この枠組みが有効かどうかは別として、この枠組み内で行われた作業としては、たいへんにあざやかな、理想的なものであると思う。
 講演終了後、澁谷さんにご挨拶&名刺交換。

日本の童貞 (文春新書)

日本の童貞 (文春新書)

D.T.

D.T.