セール『五感』

 触覚・皮膚論の調査が続く。今日読んだのは Michel Serres, Les cinq sens, Paris, Edition Grasset,et Fasquelle, 1985(ミッシェル・セール、米山親能訳『五感』法政大学出版会、1985年)。

五感―混合体の哲学 (叢書・ウニベルシタス)

五感―混合体の哲学 (叢書・ウニベルシタス)

引用(ページ数は邦訳による)

 多くの哲学が視覚に重きを置いており、聴覚に重きを置く哲学は数少ない。しかし嗅覚および触覚に重きを置く哲学はさらに少ない。(18頁)

 画布、ヴェール、皮膚
 一九〇〇年頃、ピエール・ボナールは『化粧着』を描いた。彼は画布に色を塗ったわけだが、その色が、木の葉に囲まれた化粧着と女性とを浮かび上がらせている。
 背後から描かれたこの褐色の肌の女性は、右側に身体をわずかにねじったポーズをとっている。きわめてゆったりとして長いこの化粧着のオレンジがかった黄色の布地は、まるでこの女性を包み隠しているかのように、立っているこの女性の身体全体、足の先からうなじまで覆っており、わずかに鼻、片方の耳の上部、閉じられた片方の目、額、髪の毛と一種のまげが見えるのみである。化粧着がこの女性を覆い、その布地が画布を覆っている。
(・・・)
 木の葉を取り払ってみたまえ、化粧着を取り払ってみたまえ。そうすれば、あなたの指はこの女性の褐色の肌に触ることができるのだろうか、それともカンバスに触るのだろうか。ボナールは、視覚に訴えているのではない。この絵は見る者の指に、薄い表皮や層、葉叢、布地、画布、滑らかさなどを感じさせ、葉を摘み取り、衣服を脱がせ、ヴェールをはぎ取る感覚、薄くて軽い帳の感触を、洗練された形で感じさせるのだ。触覚に満ちた彼の芸術は、皮膚を視覚の凡俗な客体とはせず、感じる主体、つねに何かの下に覆われてはいるが能動的な主体としている。(・・・)(24-25頁)