テリー・ギリアム監督『ローズ・イン・タイドランド』(2005年・英/加)

 テリー・ギリアム監督の『ローズ・イン・タイドランド』(原題 Tideland; 2005年・英/加)をDVDで見る。

ローズ・イン・タイドランド [DVD]

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不思議の国のアリス』が大好きな10歳の少女ジェライザ=ローズ。両親が2人ともヤク中で、ある日ついに母親が死んでしまう。慌てた父親はジェライザ=ローズを連れて故郷へと旅立つ。辿り着いた実家は、周囲に何もない草原の中に立つ壊れかけた古い家。着いて間もなく、父親もクスリを打ったまま動かなくなってしまう。一人取り残されたジェライザ=ローズだったが、指にはめた頭だけのバービー人形を相手にしながら周囲の探索を開始するのだった…。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=321930

 テリー・ギリアムモンティ・パイソンのメンバーとして知られる。近年、映画作家として活躍していることはしっていたが、私は本作ではじめて彼の映画をみる。見かけの病的さとキッチュ趣味に惑わされこの作家の特質を渋谷宇田川町あたりのミニシアターで上映している愚劣な「アート系」映画と同じカテゴリーに押し込めようとする浅はかな観客に、この映画は激しい拒絶をもって応えるだろう。キリスト教的世界観を忠実に表明した、いたって端正な映画である。
 ジェライザ=ローズが父親の実家で出会う奇妙な隣人。ロボトミー手術*1を受けたらしい白痴青年。そして、彼の姉、魔女めいた義眼の女。誰もが狂っている。義眼の女は死んだ生物を剥製にする。自らの母を、そして、ローズの父親を。人形の生首と会話するローズ。はじめローズが声色をつかって人形のセリフを話すが、いつしかローズの唇が動いていないのに人形が喋り出すのが不気味。人形は人間のようにふるまう。そして、クスリを打って死んだ父親の屍体は義眼の女によって剥製にされ、人形と化する。人形が人間になり、人間が人形になる映画だ。そして白痴青年のいだく黙示録幻想ともいうべき終末のヴィジョン。ヨハネ黙示録の描く最後の審判で、人間が復活する際には屍体が必要になる。姉の屍体処理は弟の黙示録幻想を支えているのだ。
 

*1:分裂病などの治療のため脳の前頭葉の一部を切除する、かつて行われた治療。患者は白痴化する。