長尾直樹監督『さゞなみ』(2002年)

 長尾直樹監督『さゞなみ』(2002年)をみる。

さヾなみ [DVD]

さヾなみ [DVD]

 温泉地として知られる山形県米沢市。市の職員として水質検査に携わる稲子(唯野未歩子)は、奥津館の源泉調査に赴き、そこで温泉についてまかされているという便利屋の男・玉水(豊川悦司)と出会う。稲子の母・澄江(松坂慶子)は、和歌山県太地町カメラ店をひとりで経営しており、夫は17年前に海の向こうに渡っていった。噂では、ブラジルで女と暮らしているらしい。稲子は母から、父は海難事故で亡くなったと聞かされていた。ある日、山形で暮らす叔母夫婦(天光眞弓・きたろう)の元に、サンパウロの日本人会から出された澄江の夫からの手紙が届く。それを電話で伝えられ、穏やかだった澄江の心がかすかに揺れ動く。奥津館で稲子は、幼少の頃の出来事がきっかけで、今でもたまに音が聞こえなくなることを玉水に打ち明ける。そんな稲子を玉水は無言でそっと抱きしめる。いつしか彼に惹かれはじめた稲子...
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD33605/comment.html

 数年前、恵比寿の東京都写真美術館で「美術館で見る映画」シリーズとして上映されていた。残念ながらそのときは見逃していて、ようやくDVDで見たわけだが、なんともはや、絶品である。とにかくミニマリズムの映画だ(「何も起こらない系」とも言う)。ほとんど筋立てを追うことを困難にするほどに最小限にしぼられた科白は小説家・保坂和志の協力のもとに書かれたものだという。唯野未歩子の今にも泣き出しそうな話し方でそれが読まれると、信じ難いほど魅力的である。暗い室内のシーンと暗い山林のシーンが交番し、一点透視の構図(例えば長い廊下のショット)が反復的に挿入される。無機質な彩度も光度もおさえられた画面の美しさは、劇場で見ることを逃した者に激しい悔恨を抱かせる。