溝口健二『武蔵野夫人』(1952)

武蔵野夫人 [DVD]

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武蔵野の高台に住む道子(田中絹代)の許へ従弟の勉(片山明彦)が復員してきた。嫉妬深い夫(森雅之)は勉をアパートに住まわせるが、やがて道子と勉はただならぬ関係に。しかし夫もまたそれを見てみぬふりをして、従兄の妻・富子(小暮実千代)との不倫へ走り…。
フランス心理小説の手法を取り入れた大岡昌平の同名ベストセラー小説を原作に、巨匠・溝口健二監督が描いた愛欲と嫉妬のドラマ。さまざまな男女が入り乱れながら、それぞれの複雑な心理が交錯していく中、溝口演出は手際よくそれらを整理し、単なる文芸映画の域を超えたものに仕上げている。溝口映画唯一の東宝作品で、スタッフも砧撮影所の精鋭陣ということもあってか、お得意の情念の発露もややお上品になったきらいはあるか。(増當竜也

溝口がヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞し世界的な映画作家となる以前の佳作をみる。原作は言わずと知れた大岡昇平の同名小説。ヒロインを演じる田中絹代のセリフがいい。「ああ、それだけはやめて」という通俗映画の濡れ場の常套句も、この映画で聞くとなかなか新鮮。このDVDは四方田犬彦氏の解説映像がついているのが楽しい。