クレランボー

18,19世紀の生命論の調査にやや食傷。現実逃避的に、フランスの精神科医クレランボー Gaean Gatian de Clerambault (1872-1934) のことを調べはじめる。通常、精神医学史では、恋愛妄想(erotomanie) の概念の提唱者として著名。ジャック・ラカンが「精神医学における唯一の師」と仰いだ人物としても知られる。パリ警視庁特別医務院に長年勤務し、犯罪者の症例研究を多数残している。他方で布地のドレープにただならぬ興味を示す。モロッコの民族衣装を調査し、人類学会・美術学校などで研究発表までしている。また、彼が観察した患者のなかには、絹の布地に異常な執着を示し、布地店で盗んだ絹を手で弄びながら自慰行為に耽った女性が複数いた。この症例をクレランボーは「接触愛好」と名付け、詳細な分析を行っている。ともに布を愛した精神科医と女性患者たち――。晩年クレランボーは失明し、鏡の前でピストル自殺をとげている。眼が見えない彼が、なぜ鏡に向かって自殺しなければならなかったのか――。ことほどさようにクレランボーは謎の多い人物である。

邦語で読める著作は以下の2冊。

クレランボー精神自動症

クレランボー精神自動症

熱情精神病

熱情精神病

主要な著作は G. de Clerambault, Oeuvre psychiatrique, Paris, Frenesie, 1987 (1942年にPUFから出た二巻本のリプリント) で読める。

上記 Oeuvre psychiatrique から接触愛好についての著作のみをまとめたのが次の文献。
Clerambault, Passion erotique des etoffes chez la femme, Paris, Empecheurs de penser en rond, 2002.

クレランボー接触愛好の女性患者については、以下の本にくわしい。

群衆論 (ちくま学芸文庫)

群衆論 (ちくま学芸文庫)