西野達「天井のシェリー」@銀座メゾン・エルメス

clair-de-lune2006-08-31

現代美術の作家、西野達の作品展をみる。銀座エルメスの屋上にある騎士像をかこむように足場を組み、その不安定な足場の上にプレハブ小屋を建て、若い女性の個室のようなインテリアを施すというインスタレーションエルメスのビルの最上階から非常階段を上がり、屋上に行かないと見られない。私は高いところが大好きだが、高所恐怖症の人には絶対無理。不安定な足場の板には水はけの穴がボコボコあいていて、女性客が細いヒールで非常に歩きにくそうにしていた(ほんとに危ない)。プレハブにたどり着くまでには銀座の路上に身投げできそうな場所が無数にあって(ろくな安全対策をしていない)、よく設置許可がおりたものだと感心(建築許可証が誇らしげに貼ってある)。それにしても、あの騎士像に手を触れられるような至近距離で対面できる機会は恐らく最初で最後だろう。ソニービルを眼下に見、目の高さに有楽町マリオンの外壁を望む視界を得ただけでも大収穫だった。プレハブの内部はいたってふつうの部屋で、まあ騎士像がベッドの上にある(というか、像はうごかせないので、まわりにベッドを作り込んだというほうが正確)のは奇怪で面白いが、とにかく、このような異常な眺望、危うい足下、エルメスビルの屋上という普段は出入りできない空間、等々、「身体経験を創造する試み」として、非常に刺戟的だった。西野氏は海外でもこのような「建物の上に建物をつくる」(まさに「屋上屋を架す」)を行っているらしい。
ところで8階のメゾン・エルメスに通じるエレヴェーターはエルメスの店舗1階(香水などの売り場)を通らないと行かれない。かぐわしい香りに満ちた、美しい店員さんのいる店内を通ったとき、ドブネズミ色のジャケットに大量の本で膨らんだ鞄を提げ、これも資料の束でいびつにふくらんだアフタヌーンティーのトートバッグというウミウシのごとき出で立ちで来てしまったことを少しだけ後悔した。
そういえば今日昼間、地震があったらしい。プレハブ小屋にそのとき居合わせた人は肝を潰したのではないか。