西川美和『ゆれる』渋谷アミューズCQNにて

前作『蛇イチゴ』以上の見事な出来である。
渓谷の吊橋の上で口論し揉み合いになる若い男女。女は谷底で水死する(おお、オフィーリアよ)。彼は何をしたのか、彼のしたことは悪なのか。彼には弟がいる。弟は谷にほど近い斜面にいた。彼は何かを見たのか。法廷で裁かれる兄に過酷な証言をする弟。彼の証言内容は真実なのか。彼が証言したその行為は、兄にとって、彼にとって、善いことなのか。そもそも惨劇は、どこから始まっていたのか。真/偽、善/悪、始まり/終わり・・・吊橋から身を躍らせ欄干へと必死にすがりつく女のごとく、すべてが宙吊りになったまま「ゆれる」。まさに、その言葉の強い意味における「サスペンス」(suspens=宙吊り、未決)である。
公式サイト http://www.yureru.com/splash.html
監督自身の手になるノヴェライズ本も出ている。

ゆれる

ゆれる

ところで、上映館の「アミューズCQN」。渋谷、宮下公園の向かいにあるピカソ347ビルの7&8階を占めている劇場である。塚本晋也『ヴィタール』を見て以来、数年ぶりにたずねた。あらためて、このビルはなかなかおもしろい空間だ。エスカレーターの上りと下りの間の隙間が完全に吹き抜けになっていて、最上階8階から覗くと1階の床を見ることができる。ヒッチコック『めまい』の気分を満喫。すばらしい。たぶん、屋内で投身自殺も可能。7階と8階の間の踊り場の壁はガラス張り。眼下に宮下公園が望める。まあ、高所恐怖症の方には耐え難いだろうが、この映画の上映に、これほど好適な劇場がほかにあるだろうか。これから見ようという方。新宿武蔵野館でも上映しているが、どうせならこのアミューズCQNでごらんになることをおすすめする(ただし、映画館としては、指定席方式なのが私は不満。自由に座らせてほしい。まあ、指定番号なんて、当然無視するわけだけど)。