大森荘蔵『知の構築とその呪縛』

 

知の構築とその呪縛 (ちくま学芸文庫)

知の構築とその呪縛 (ちくま学芸文庫)

 一級の(自然)哲学でもあり、ある種の科学史の様相をもしめす興味深い論考。日常世界的なものの見方である「略画」的世界観と、それを精緻化した近代科学の「密画」的世界観は両立(重ね描き)しうる、という主張が展開される。たとえば、川の水が流れるのは、「略画」的世界観では、たとえば水は豊かな大海に心ひかれ懸命にそこをめざして川を下っているといった理解が可能だが、「密画」的な見方では、水という物質(H2O)が位置エネルギーによって落下する運動ということになる。この「略画」と「密画」は相互に矛盾なく両立する、というのが大森の主張。そして、「略画」的思考の導くアニミスム的・物活論的世界観の今日的な可能性を論じる。