野村誠一監督『ナチュラル・ウーマン2010』@イメージフォーラム

 青山のイメージ・フォーラムにて、松浦理英子原作の映画『ナチュラル・ウーマン2010』を観る。二人の女性、村田容子と諸凪花世の恋愛を描いた映画。原作小説を大胆に換骨奪胎しており、なかなか好感がもてる。
 本作は『ナチュラル・ウーマン』として1994年にも映画化されている(監督は佐々木浩久)。1994年版には原作者の松浦自身が脚本に参加していた。両作品を比べることもないのだが、どうしても共通の原作ということで、比較したくなる。1994年版は佐々木・松浦執筆の脚本(事実上、松浦の手になる模様)が優れおり、キャスティングも適切である(緒川たまきがヌードを見せたことばかりが話題になるが、この私は嶋村かおりの雰囲気・演技がすがばらしかったと思う)。だが、映画の表現技術の点で大いに難があり(とくに録音が最悪で、衣擦れや家具の軋む音などがうるさい一方で、科白が聞き取りにくい)、また脚本はそれ自体として読むと面白いが、映画にすると、原作の再現を重視しすぎている感もある。2010年版は、原作への忠実性ということはさほど重視せず、細部の設定を変更し、原作があえて曖昧にしている結末に一つの明確な解釈を示している。こういう冒険心は、小説の映画化という場合、成功する場合が多いようだ。テクストと映像はそもそも表現形態として違うのだから、小説の忠実な映画化というのは、所詮無理な話である。キャスティングはどうか。主人公の村田容子役の亜矢乃という女優は、今回はじめて知ったが、なかなか悪くない。自然体で何事も受け容れるが、それにもかかわらず/それがゆえに、強い自己をもっている女性である容子の役どころに、彼女はふさわしい。プライドが高く容子を支配しようとするが、じつは人一倍傷つきやすく、つねに他人に映る自分の姿におびえている女性、花世を演じる女優は難しい。2010年版の花世役・汐見ゆかりは(この人も本作ではじめて知った)、魅力ある女優だが、ちょっとハマリ役すぎてあざといキャスティングという気がしないでもない。注目すべきは、物語の後半に重要な人物となる森沢由梨子を演じた英玲奈*1だ。2010年版の魅力の半分ほどは、彼女にあるといってよいほど、すばらしい演技だった。
 この日の上映の後には、主要出演者と原作者松浦理英子トーク・イベントが開催された。英玲奈さんについては、このときのトークの受け答えも、頭の冴えと人柄の良さを感じさせる魅力的なものであった。じつは、この映画そのものには私は当初あまり期待しておらず、松浦氏のトークを聴くことを主な目的として、この日は出かけたのであった。日頃トーク・イヴェントなどに出ることの少ない松浦氏の姿を拝見し、声を聴く機会を得たのはこれがはじめてで、大変喜ばしい。映画の評価については、監督や出演者と会ったときには75点ぐらいの映画になると思ったが、できあがってみると60点ぐらいだった、とのことで、なかなか辛口である。終了後、原作本にサインをいただいた。几帳面な楷書の字で書いてくださったのが印象的である。
『ナチュラル・ウーマン2010』公式ページ

ナチュラル・ウーマン [DVD]

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 →映画・1994年版。
ナチュラル・ウーマン (河出文庫)

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 →河出文庫・新版。 →河出文庫・初版(新版と解説・装丁が異なる)。
ナチュラル・ウーマン

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 →再刊単行本(河出書房新社)。
ナチュラル・ウーマン

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 →初版(トレヴィル)。

*1:彼女は、三菱自動車のテレビ・コマーシャルに出ているときに知って以来、美しい女性だと思っていたが、本作で女優としての演技も見事なものだとわかり、あらためて魅力を認識した。ちなみに、中山エミリの妹。顔はよく似ている。