フランシス・コッポラ監督『コッポラの胡蝶の夢』

 コッポラの2007年の作品『コッポラの胡蝶の夢』(原題「若さなき若さ Youtth without Youth」)をDVDで観る。古今のさまざまな言語を研究することに生涯をささげ、すっかり年老いてしまった言語学者ドミニクは、ある日、落雷に撃たれ、瀕死の重傷を追う。病院で治療を受け、体中の包帯を解かれてみると、彼はなんと若き日の肉体を取り戻していた。さらに頭脳もまた驚異的な若返りをとげていることが明らかになり、彼は長年の夢であった「言語の起源」をめぐる研究にのめり込む。研究のさなかに出会う、謎の女性ラウラ……。
 現代の言語学が不可知のものとして退ける「言語の起源」問題に取り組む主人公の姿は、森羅万象の探求に生み果てたファウストに重なる。そして、落雷が奇跡を起こすというロマン派文学的な幻想。『地獄の黙示録』に比肩する大傑作といえるかどうかは難しいところだが、ルーマニア語からサンスクリット語、さらにはかつて地上に存在しなかった「新言語」まで無数の言語が飛び交い、古今の言語論が参照される、ポリグロットでペダンティックな傑作である。なお、本書の原作は宗教学者ミルチャ・エリアーデの小説『若さなき若さ』(作品社の『エリアーデ幻想小説全集』第3巻に所収)。邦題は、作中でも言及される荘子の逸話からとられたものであろう。この邦題のつけ方は、なかなかよかった(『ゴダールの決別』などと同様、「コッポラの」は余計だと思うが)。

コッポラの胡蝶の夢 スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]

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エリアーデ幻想小説全集〈3〉1974‐1982

エリアーデ幻想小説全集〈3〉1974‐1982