豚肉は誰にとって危険か?

 北海道のミートホープ社が製造販売していた牛肉コロッケに豚肉(および鶏肉)が混入していたという事件。連日の報道があまりにひどい。とくにテレビ。報道ステーションテレビ朝日)の古館伊知郎などがしたり顔で「食の安心・安全が脅かされて」などと語っている。
 だが、考えてみるに、これは誰にとっての安全・安心の危機なのか?
 誰が危険にさらされているのか?
 端的にいって、牛肉コロッケだと思って食べたものが、じつは豚肉コロッケだったとして、大多数の人には何の問題もない。その豚肉が賞味期限を過ぎていたり大量の違法薬物が投入された飼料で育った豚の肉だったりすれば話は別だが、いまのところ、そのような事実は報道されていない。だから、大多数の人にとって、これは実にせこい不当表示事件、詐欺事件に過ぎない。コンビーフと書いて売っている缶詰に馬肉が入っていることを今更のように憤る愚行に等しい。
 もしこの事件で実害をうける人がいるとしたら、それは二つの可能性しかない。すなわち、豚肉アレルギー患者とイスラーム教徒。かれらは豚肉を避けているのに、表示偽装のような不可抗力で食べてしまってはたまったものではない。
 だが、かれらから被害の訴えがあったという報道はまったくみられない。仮に訴えがないとしても、可能性として、この不当表示が豚肉アレルギー患者やムスリムにとっての危機であるという報道はなされてしかるべきだと思うが、そのようは声はほとんど挙がっていない。
 つまり、具体的に、誰にとって、どのような危機がある(安心・安全が脅かされている)のかを、メディアはまったく明らかにしないまま、危険だ危険だと騒いでいる。これは、何の災厄が起きるかわからないがとにかく日蝕や月蝕は凶事の徴候だといって右往左往する未開人とまったく同じであろう。
 そしてこのように実体が不明確なまま根拠のない危機感だけが高められることで、まさに「体感治安」は悪化してゆく。根拠がないのだから、この「治安悪化」の速度はいかようにでも加速する。そして、それに応じて、怪しげな監視網、規制、訴訟が増加し、誰もが身動きのとれない社会になってゆくのだ。*1

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 この記事にfalcon1125さんトラックバックしてコメントをつけてくださった。どうもありがとうございました。(7.1追記)

*1:ところで、こういうどうでもいい事件をことさら報道し、輸入牛肉という明らかにBSEの危険がある、つまり文字通り「安心・安全」にとって実害のある食品を輸入販売している業者や、その輸入解禁を政府にせまって国民の脳をスポンジ化の危機にさらした某牛丼チェーン店の社長などは腹を切って死ぬべきであると思うのだが、批判的な報道はほとんどなされていない。