ソシュールを読む

 或る(不本意な)必要からソシュール言語学について少々調べる。まずはソシュールの講義録。専門外の人間にとっては、とても通読する気がおきるような本ではないので、むろん拾い読みである。

一般言語学講義

一般言語学講義

岩波書店、1991年改版、4515円。ソシュールの講義録といえばこの訳本が戦前からの定番であった。この邦訳の初版はソッスュール『言語學原論』(岡書院、1928年)である。ヨーロッパでもまださほどしられていなかった戦前にソシュールにいちはやく注目し訳出した小林英夫の眼力には驚かされる。1940年以降、岩波書店に版権がうつり、現在にいたる。

 この小林訳が70年以上にわたって読まれてきたわけだが、最近エディット・パルクという版元から新訳が刊行中である(私は今回はじめて知った)。現物はまだ手に入れていないが、紹介しておこう。次の二巻が既刊である。

一般言語学第三回講義―コンスタンタンによる講義記録

一般言語学第三回講義―コンスタンタンによる講義記録

→エディット・パルク、2003年、3570円。
一般言語学第二回講義―リードランジェ/パトワによる講義記録

一般言語学第二回講義―リードランジェ/パトワによる講義記録

→エディット・パルク、2006年、3675円。

 講義録では(すくなくとも私には)とても理解できないので、解説書の御世話になる。英語圏での定番とされてきたジョナサン・カラーの『ソシュール』もようやく最近邦訳されたが、いぜんとして丸山圭三郎の著作が理解しやすさという点ではすぐれている。次の本がよい。20年来のロングセラーである。

ソシュールの思想

ソシュールの思想

→1981年、4200円。『ソシュールの思想』というタイトルだが、ソシュールの伝記的記述も充実。ソシュールにいたる文法学説史なども簡明に書かれている。後半はソシュールから構造主義諸学にいたる、いわゆる文化記号学の解説に紙幅が割かれている。

 丸山には次の本もある。

ソシュールを読む (岩波セミナーブックス 2)

ソシュールを読む (岩波セミナーブックス 2)


→1983年、2500円。市民講座で行った講義がもとになっている。です・ます調で書かれているが、どうも切れがよくない。上記『ソシュールの思想』のほうが(一見専門書的な装丁でとっつきにくいが)はるかにわかりよいと思う。

 ところでソシュールは晩年、アナグラムの研究に手を染めている。これは彼の言語学上の業績にたいしてどのような意味を持つとか、現在も評価が定まっていない。これも比較的最近邦訳が出たスタロバンスキー(どうやらスタロビンスキーと発音するのが正しいようだが)のアナグラム論が気になる(べつに高価な本ではないのだが、なんとなくまだ手に入れていない)。

ソシュールのアナグラム―語の下に潜む語 (叢書 記号学的実践)

ソシュールのアナグラム―語の下に潜む語 (叢書 記号学的実践)

→2006年刊、2500円。