「女性の喫煙」の新聞記事に思う

Yahoo!News 読売新聞配信の記事を全文引用する。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060827-00000101-yom-soci

 母譲り?女子中高生の喫煙、吸わぬ親と1・8倍の差
 両親に喫煙・飲酒習慣があると、その子供が中高生になって喫煙・飲酒する割合が、両親に習慣がない場合に比べていずれも大きく、父親よりも母親の影響を受けていることが、厚生労働省の研究班(主任研究者・林謙治国立保健医療科学院次長)の調査でわかった。
 林次長は「子供を指導する前に親を指導することが必要」と指摘している。
 この調査は、厚生労働省研究班が全国の中高生、のべ約32万4500人にアンケートし、1996年度から4年ごとに2004年度まで実施。今年度になって、林次長が再分析を加えた。
 04年度の調査によると、喫煙する母親を持つ女子の喫煙率は、喫煙しない母親を持つ場合の1・81倍で、飲酒する母親を持つ女子の飲酒率はそうでない場合の1・66倍。父親が喫煙や飲酒をする場合は、それぞれ、しない場合の約1・3倍だ。
(読売新聞) - 8月27日9時51分更新

厚生労働省の調査は、男子中高生の喫煙にたいする両親の喫煙習慣の調査を行ったのだろうか。この記事の一つ目のパラグラフの書き方だと「高校生」とだけ書いてあるので、おそらく男女の高校生にも調査は実施されたのだろう(役所は、少なくとも建前だけは、男女等しく扱うはずだ)。だのに、この記事では、「母親」の喫煙習慣が「女子」中高生の喫煙を導くということのみが述べられている。男子高校生については、母親と父親のどちらの喫煙習慣ほうが影響するのかというデータは示されておらず、そもそも、男子についての記述は一切ないのである。つまり厚生労働省の調査結果から或る箇所を切り出して記事にするなかで、ことさら女子中高生の喫煙のほうが男子中高生のそれよりも問題であるという態度をとり、さらには(女子中高生への喫煙習慣の影響力が父親よりも大きいことは事実だとしても)母親の喫煙習慣のほうが父親のそれよりもことさら悪であるという無根拠な*1価値観を(社説やコラムなど「意見」を述べる形ではなく)報道記事という形で(つまり「事実」と称して)暗示しているわけである。
まあ、いまさらナイーヴに女性差別反対! と叫ぶ気力ももはやないのだが、相変わらずというか、別に読売だからということではなく、また新聞だからというわけでもなく、マスメディアというのは相変わらずで、おそらく役所や一般企業やそこらの誰彼よりもはるかに保守的だなと改めて実感した次第。女性に対する特定の価値観や理想の押しつけ、世間では充分に「セクハラ」である*2
これは、例の秋田の畠山鈴香容疑者の犯行によるものとされる児童殺害事件の報道に関して(あるいは被害者・加害者いずれの形にしても)女性が中心人物となった事件の報道にふれる旅に感じることと同じだ。秋田の事件の容疑者を、テレビや雑誌ジャーナリズムは「鈴香容疑者」と称し、「畠山容疑者」とは言わない(名字で書いて別人と混同する恐れはこの事件に関してはないはずだ。事実、新聞は畠山容疑者と書いている)。容疑者が男性だとして、このように、姓ではなく名で呼ばれることは、まずないはずだ。
女性が殺人事件の被害者になれば「美人女子大生殺害」云々と。男の大学生で「美男(今なら"イケメン"か)大学生殺害」などと書かれることはまずない。
これらはいずれも瑣末なことだし、ジャーナリズムなんてそんなものだといえばそれまでだが、明確に規定された社会制度の男女非対称(たとえば天皇制や企業の待遇格差)よりも、やはりこのような日頃あまり意識されることのない*3瑣末なことこそ、われわれの行動を強く規定するものではあるまいか。*4

*1:女子は将来子供を生む可能性があるから、喫煙習慣は男子以上によくないという主張があるが、論拠不十分だ。すべての女性が子供を生むわけではない以上、女性の属性の第一義に母性を想定することは不当である。また、家族として暮すなかで受動喫煙の害にわが子を晒す可能性は男性にもある。

*2:むろん、大衆的な価値観のなかで、いぜん女性が煙草を吸うことは男性の喫煙以上にモラルに反するとされていることは言うまでもない。しかし法律とか就業規則とかでそんな価値観を表明している企業も官庁も皆無だろう。

*3:とは言っても、鈍感な私のようなものですら気になった、ここに挙げたような例は女性は敏感に意識していることと思う。

*4:ところで、ここでの本題とは全く関係ない、それこそ単に私の価値観の表明に過ぎぬのであるが、母体や子供の健康に影響するといった理屈は抜きにして、女性の喫煙はそんなに不快なものだろうか、世の男性諸氏よ。女性が煙草を吸う姿は、むろんその女性がそもそも美しく仕草が洗練されていていればの話だが、むしろ魅力的な振る舞いに私には感じられる。同じ一人の美しい女性が煙草を吸う場合とそうでない場合だったら、前者のほうに惹かれるとさえ言える(少なくとも煙草を吸うということがマイナス要素にはならない)。男の場合は、彼が美しかろうがそうでなかろうが喫煙者であろうが非喫煙者であろうが、どうでもよろしい(笑)。吸い方が不粋なら、男女問わず不快だ。また、たんに喫煙という行為だけを考えた場合、女性のほうがことさら見苦しいとは思わない。