矢崎仁司『ストロベリーショートケイクス』

ストロベリーショートケイクス [DVD]

ストロベリーショートケイクス [DVD]

映画「ストロベリーショートケイクス」-allcinema
 矢崎仁司監督、2006年。傑作。劇場で観なかったことを激しく後悔。いささか「自分語り」系の危うさを感じるが、それもまた現代日本のリアリズム。都市に生きる4人の女性の日常を描いた映画で、大きな物語はない。とにかくこの4人の女性が、そして彼女たちの生活が、みなそれぞれに魅力的。池脇千鶴中越典子中村優子・岩瀬塔子が演じている。
 池脇千鶴という女優は、特に美形ではないものの別段不細工だとも思わなかったのだが、本作のフリーター・里子の役では見事に不細工な(しかしチャーミングではある)女性になっていて、妙に感動。彼女は道で拾った石(隕石?)を「神様」として拝む。この胡散臭い神様に、意外な効験があって里子は困惑する。
 中越典子が演じるのは、おしゃれで美人だけど、あまり文化的な関心などはなくて、凡庸な喜びに無邪気に自足する、そして幸せな結婚を何よりも望んでいる一般職会社員(制服OL)・ちひろ。こういうOLさんいるだろうなぁ。個人的には、こういう女性、結構好き(しかし、話をするとつまらないのだ、正直なところ)。
 出色の存在感を放っているのが、中村優子演じる秋代。彼女はコールガールだ。ただのホテトル嬢なのだが、どこか高級娼婦*1の雰囲気がある。空虚で儚げな女。彼女は棺桶をベッドがわりにしており*2、娼婦業で稼いだ金でマンションを買い、年老いて呆ける前に自殺したいと語る。中村優子の演技は奇跡的に素晴らしい。彼女の出演作は今後要注目である。参考:中村優子プロフィール
 そして、岩瀬塔子が演じるのはイラストレーター・塔子。創作に苦しみ、摂食障害を患う。ちひろと対極にあるような女性だが、二人はルームシェアをして暮らしている。
 原作は魚喃キリコの漫画『strawberry shortcakes』。じつは映画でイラストレーター・塔子を演じている岩瀬塔子とは魚喃の女優としての名前である。なかなかの美女。
Strawberry shortcakes (フィールコミックスGOLD)

Strawberry shortcakes (フィールコミックスGOLD)

*1:仏語でクルティザンヌ、伊語でコルティジャーナ。典型的にはヴェルディのオペラ『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』のヴィオレッタ(=デュマの原作『椿姫』のマルグリット)。

*2:これは女優サラ・ベルナールの逸話に想を得た設定であろう。サラは上述の『椿姫』の舞台でも主役を演じている。